おやすみ

朝起きると、枕元に口の開いたチョコレートの包装紙と食べかすがあった。
それを見て夜中に自分が起きて食べたのをうっすらと思い出す。
でもそれは夢の中の話のようだし、誰かから聞いた話のようでもある。
夢と現実、自分と他人、友達と恋人、自分と世界、それらの間にはっきりとした境界が見つからない。
今日と明日の境界線を引くように不眠症の母は毎晩私の手を握り「おやすみ」と言って布団に入る。
不安げに微笑む母の表情のように、昼に見る月のように、名前もつかずにとけてしまいそうなその間(ま)に出会い、認め、残したい。

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